従業員の受診する医療機関を会社側は指定ができるか

近年、従業員の健康管理が企業の重要な課題として注目されています。特に、メンタルヘルス不調による休職や自宅療養といったケースに直面することは珍しくありません。療養に必要なメンタルクリニックの選択は、基本的に従業員の自由とされています。休職中の従業員の状態を確認し、適切なサポートを行うためには、会社と医療機関の連携や情報共有が欠かせません。ところが、医療機関の都合(例:主治医が固定されていない等)によって連携がスムーズに進まない場合も多く見られます。

こうした課題を避けるために、事前に会社側が医療機関を指定することができるのか、あるいは途中で指定クリニックへの受診変更を指示することが可能なのかについて、悩む企業担当者の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、就業規則の有無や従業員の状況に応じた対応策、さらに費用負担や法律上の注意点について整理しながら、「従業員の受診する医療機関を会社側が指定できるか」というテーマをわかりやすく解説していきます。従業員の健康を守りつつ、会社として適切な対応を進めるためのヒントをぜひご参考ください。

① 就業規則に「会社の指定する医師への受診を指示される」という規定がある場合

回答:可能です。
就業規則に明確な規定がある場合は、会社側が従業員に対して特定の医療機関での受診を指示することが可能です。

② 就業規則に上記の規定がない場合

(1) 現時点でどこにも通院していない場合

回答:原則として可能です。
就業規則に規定がなくても、会社には安全配慮義務があるため、従業員に初回の受診先を指定することは可能ですが、以下の場合分けが必要になります。

  • 従業員が特に希望するクリニックがない場合:会社が指定する医療機関を受診させることに大きな問題はありません。
  • 従業員が明確に希望する医療機関がある場合:クリニックの指定を強制することは慎重に行う必要があります。この場合、「従業員の医師選択の自由」と「会社の安全配慮義務」が相反するため、最善の対応を見極める必要があります。また、会社が医療機関を指定した場合、費用負担が会社側に求められる可能性も考慮する必要があります。

(2) 現時点で別の医療機関に通院している場合

回答:慎重な対応が求められます。
既に通院している医療機関がある場合、会社側が別の医療機関への受診を強制することは難しいケースが多いです。会社や産業医は従業員の治療の直接的な責任者ではなく、あくまで治療支援者の立場です。そのため、セカンドオピニオンを提案する形で別の医療機関の受診を促すことが考えられますが、本人の同意がない場合は強制するのが困難です。ただし、適切な診療科に通院していないと考えられる場合は、別の医療機関への受診指示が可能となる場合もあります。例として、「精神疾患が疑われる場合に内科に通院している場合」「手術後や癌治療の影響で身体症状に加えて精神症状が出た場合」「精神科と神経内科を間違えて受診している場合」などのケースでは、会社が精神科や心療内科の受診を指示することは妥当です。

いずれにせよ、会社が受診を促す場合は、従業員に「このまま治療が不十分だと今後どのような悪影響が出る可能性があるか」を丁寧に説明し、その防止策の一環として別の医療機関を受診する選択肢を提示する形が望ましいです。

補足1:受診先を指定し、就業規則に盛り込む場合は当該医療機関の許可を得ることが望ましい

就業規則や附則に具体的なクリニック名を記載して運用する場合、先方の病院側に確認や許可を取る必要があると考えられます。病院側の視点として、患者紹介は病院側にとってもメリットがあるため、大きな問題にはなりにくいですが、正式な確認を行うことで運用の透明性を確保できます。また以下のケースでは、病院への指定料を支払うことも検討できます。

  • 大企業から一定数以上の受診者を依頼する場合
  • 優先的な受診をお願いする場合

これらについては当該医療機関との双方合意として運用していく形になると考えます。

補足2:既に受診している場合や指定病院への変更を促す場合の費用負担について

指定病院へ受診先変更を指示する場合は、初診料、紹介状の発行費用などを会社で負担することで、従業員に余計な経済的負担をかけず、スムーズな対応となる可能性があります。費用負担については上限金額を設定すると良いかもしれません。

従業員の健康管理において、会社側が医療機関を指定することは慎重に検討すべき課題です。就業規則の規定や従業員の状況に応じた柔軟な対応が求められると同時に、費用負担や法律上の注意点にも配慮する必要があります。一方で、医療機関を指定することで復職へのプロセスが統一化され、休職〜自宅療養〜復職の流れをよりスムーズに行うことも可能です。本記事でご紹介したポイントを参考に、より良い健康管理体制の構築を目指しましょう。

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