職場における健康管理や復職支援の場面でしばしば登場する「診断書」と「意見書」。これらはどちらも医学的な観点から書かれる文書ですが、その目的や内容、作成者の立場には明確な違いがあります。本記事では、診断書と意見書の違いについて詳しく解説します。
目次
診断書と意見書の違い
まず診断書は臨床医が、意見書は産業医が作成するという大きな違いがあります。そもそも産業医がどのような位置付けであるかを理解する必要があるので、臨床医と比較しながら解説していきます。
産業医とは?臨床医との違い
産業医は会社に所属する医師です。会社や職場で働く人々の健康を守る立場であり、医学的な専門性をもったアドバイザーのような役割を担っております。臨床医と比べるとできないことがいくつかあります。まず、産業医は直接病気やケガの治療を行うことができません。例えば、風邪を引いたり骨折したりした場合、産業医は薬を出したり手術をしたりすることはできません。これは臨床医が専門とする役割で、産業医は治療ではなく予防や健康管理に重点を置いています。産業医の面談も基本的に医療行為ではなく、アドバイスや指導が中心となります。例えば、体調不良の社員が相談に来た場合、症状を聞いて改善策を提案したり、必要があれば専門の臨床医に受診を勧めたりすることはできますが、その場で診断や治療を始めることはできません。
以下は、産業医と臨床医の違いをまとめた表です。
項目 | 産業医 | 臨床医 |
---|---|---|
主な役割 | 職場での健康管理や病気・ケガの予防 | 病気やケガの診断・治療 |
働く場所 | 会社や職場 | 病院やクリニック |
対象者 | 働く人全体(社員) | 病気やケガの患者 |
行えること | 健康診断結果の評価、職場環境のアドバイス、予防策の提案 | 診察、薬の処方、手術、治療 |
できないこと | 診察や治療(医療行為)、薬の処方 | 職場全体の健康管理や環境改善の指導 |
目的 | 健康で働きやすい職場環境を作り、病気やケガを未然に防ぐ | 病気やケガを治し、症状を改善する |
相談の内容 | 働き方、ストレス、健康診断結果、長時間労働の影響など | 症状の詳細、治療方法、緊急対応など |
意見書とは?診断書との違い
意見書とは、産業医が従業員の病状や健康状態を元に、働き方に関する意見をまとめた書類のことです。職場での働き方や必要な配慮について会社に伝えるために作成します。例えば、「この人にはしばらく軽い仕事を任せるべきです」や「短時間勤務が適しています」など、従業員が健康を害さずに働けるようアドバイスを記載します。
一方、診断書は、医師が患者さんの病気やケガについて正式に診断した結果を記録した書類です。どのような病名か、いつからどの程度治療が必要かなど、治療の詳細が書かれています。これは主に臨床医が作成し、保険の申請や学校・職場への提出に使われることが多いです。
簡単に言うと、診断書は「病気やケガそのものを説明する書類」、意見書は「その病状に基づいて、どのような配慮が必要かを伝える書類」といえます。さらに言うと、診断書は医療面での公式な証明書であり、意見書は職場での健康管理に特化したアドバイス文書、と言っても良いでしょう。
以下は、意見書と診断書の違いを比較した表です。
項目 | 意見書 | 診断書 |
---|---|---|
作成者 | 産業医 | 臨床医 |
目的 | 働き方や職場での配慮について意見を伝えること | 病気やケガの診断結果を証明すること |
内容 | 病状に基づいた働き方や職場での対応の提案やアドバイス | 病名、発症日、治療期間、症状の詳細など |
使用される場面 | 会社や職場での健康管理や業務調整に必要な場合 | 保険申請、休職手続き、学校・職場提出など |
具体例 | 「軽作業を推奨」「時短勤務が必要」「ストレスの軽減が重要」 | 「インフルエンザと診断」「全治2週間」 |
法的効力 | 特定の目的に限定される | 公式な医療証明として幅広く利用される |
休職・復職対応では意見書が必要となる
さて、この「意見書」ですが、職場の健康管理のさまざまな場面で必要となります。特に従業員の休職・復職対応では、「診断書」と併せて重要な役割を担うことになります。
休職・復職対応の流れ
以下に休職〜復職までの流れを簡潔に記載します。
休職〜復職までのステップ
第1ステップ:病気休業開始および休業中のケア
- 労働者が休職が必要な旨の診断書を提出し、休業を開始します。
- 管理監督者や産業保健スタッフが、休業中の労働者へのサポートや情報提供を行います。
第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断
- 労働者が職場復帰の意思を示し、主治医から復帰可能との診断書を提出します。
- 産業医が主治医の診断書と本人面談を通して、職場復帰の可否を改めて検討し、意見書を通して事業者に情報提供します。
第3ステップ:最終的な職場復帰の決定
- 事業者が最終的な職場復帰を決定し、労働者に通知します。
このような流れで、休職している従業員の復職対応が行われるのが一般的です。この流れの中で「診断書」「意見書」が果たしている役割をそれぞれ比較しながら説明します。
診断書と意見書の役割
上記の場合、診断書が果たす役割は「日常生活における病状の回復程度と、それを元にした職場復帰の可能性」です。すなわち、患者さんの病気やケガがどれくらい治っているのか、そしてその状態でどの程度普通の生活や仕事に戻れる可能性があるのかを、主治医が医学的に判断して記載するものです。
一方意見書が果たす役割は、「医学的知見に基づき職務遂行能力まで考慮した上での職場復帰の可能性」です。すなわち、従業員の業務内容や職場環境までも理解した上で、診断書に記載された健康状態の従業員がどの程度仕事ができるのかを産業医がアドバイスするものです。
イメージとしては、①「日常生活が可能なレベルの回復」<②「業務が可能なレベルの回復」であり、診断書は①に基づいた就業判定を、意見書は②に基づいた就業判定を行なっている傾向があります。
診断書と意見書の内容が異なった場合
上記の性質を持った診断書と意見書ですが、主治医による復帰可能の診断書が時期尚早と思われる場合も時にあります。産業医や人事担当者の視点では従業員の職場復帰はまだ早く療養が必要であると考えているにも関わらず、主治医による職場復帰可能の診断書の提出があり困ったことはありませんでしょうか。
この場合の対応はとても複雑で慎重に行う必要があります。産業医が専属or嘱託、主治医が専門性を有しているか、治療期間や通院期間、治療期間中の従業員との関わり方、雇用条件、職場の規模、などさまざまな要因が影響してきます。いずれにしても原則としては、「主治医の診断書に従わざるを得ない」と考えるのが一般的です。ただ、その場合も、再休職要件を適切に設けたり、再休職から再復職するための条件を改めて設けたり、療養担当主治医と復職要件を擦り合わせたり、等の適切な対応を事前に行うことで、従業員・事業者双方の納得のいく形で対応することが可能です。
このような事例への対応は非常に複雑なため、適切な対応がわからずお困りであれば、是非一度相談していただければと思います。
まとめ
診断書と意見書は、従業員の健康管理や職場復帰を支えるために欠かせない書類です。診断書は主治医が病状や回復状況を示すもので、復職が可能かを医学的に判断します。一方、意見書は産業医が職場環境や業務内容を踏まえ、具体的な働き方や必要な配慮を提案するものです。
これらを組み合わせて活用することで、従業員が無理なく復職できる体制を整えることができます。しかし、診断書と意見書の内容が異なる場合や対応が難しいケースでは、慎重な判断と調整が求められます。
もし職場での健康管理や復職支援に関してお困りのことがあれば、ぜひ当社にご相談ください。専門的な視点から、最適な対応策をご提案いたします。